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福岡地方裁判所 昭和28年(ワ)358号 判決

原告 丸善産業株式会社

被告 新日本窒素肥料株式会社 外三名

一、主  文

被告新日本窒素肥料株式会社は原告に対して百二十四万七千四百三十一円の支払をせよ。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用中原告と被告新日本窒素肥料株式会社との間に生じた部分は同被告の負担とし、原告と被告松本建設株式会社・同大起産業株式会社・同吉富保との間に生じた部分は原告の負担とする。

二、事  実

原告会社訴訟代理人は「主文第一項同旨および原告と被告松本建設株式会社・同大起産業株式会社・同吉富保との間において主文第一項掲記の金員中七十一万二千円は内十三万六千円を原告に、中二十四万七千円を被告松本建設株式会社に、内十三万七千円を被告大起産業株式会社に、内十九万二千円を被告吉富にそれぞれ配当せらるべきものであることを確定する。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次の通り述べた。

原告会社は後記(三)(四)の通り訴外長屋俊雄が被告新日本窒素肥料株式会社に対して有する鋼材売渡代金債権に対する差押および転付命令をえ該命令は(三)(四)の通り同訴外人および同被告会社に送達された。

之より曩被告松本建設株式会社および被告大起産業株式会社は後記(一)(二)の通り右同一の債権を仮差押したけれども、この中被告松本建設株式会社のした仮差押の執行は被告新日本窒素肥料株式会社の営業所を福岡市下小山町六番地としてされたもので、当日福岡地方裁判所執行吏中村市太郎代理臨時職務執行者富永美信が同所に臨んで被告新日本窒素肥料株式会社々員に当該命令正本を交付しようとしたところその受領を拒絶されたので之を同所に差置いたのであるが、同所は同被告会社の本店でないことはもとよりその登記された支店でもなく従つて同所は民事訴訟法第百七十条に所謂営業所に該当しないから、右の正本差置を以て該命令の適法な送達があつたものということはできず、結局被告松本建設株式会社のえた(一)の仮差押命令はその効力を生ずるに由ないものである。従つて原告会社の差押に先立つものとしてはひとり被告大起産業株式会社の仮差押がその効力を有するに過ぎないから、長屋の被告新日本窒素肥料株式会社に対する債権の総額が同被告会社の陳述(後記(八))通り百二十四万七千四百三十一円であるとすれば、之から被告大起産業株式会社による被仮差押額七十一万二千円を控除した五十三万五千四百三十一円の部分は(三)(四)の転付命令により全額原告会社に帰属したものである。なお(四)の転付命令は一部被告大起産業株式会社の(二)の仮差押に牴触する部分があつてその範囲内においては実質的な転付の効力を生じなかつたけれども、この部分についてもなお(四)の差押の効力が存続することはいうまでもない。

ところで、その後被告大起産業株式会社・同吉富保・同松本建設株式会社は後記(五)(六)(七)の通り右同一の債権に対する差押および転付命令または差押命令をえて之を執行したが、当時右債権は原告会社の(三)(四)の転付命令執行の結果七十一万二千円が残存したに過ぎず、しかも之については被告大起産業株式会社の(二)の仮差押および原告会社の(四)の差押の一部がすでに存したこと前述の通りで被告大起産業株式会社および被告松本建設株式会社の(五)および(七)の転付命令も亦何ら実質的な債権転付の効力を生じえなかつたものである。而してその後原告会社は後記(九)の通り差押命令をえて之を執行した。そこで右残存債権七十一万二千円については原告会社・被告大起産業株式会社・同吉富・同松本建設株式会社(四)(五)(六)(七)(九)の各差押が競合しているわけであるが、原告会社は右差押命令と同時に後記(九)の通り取立命令をえて総債権者のため之を取立てようとしたが被告新日本窒素肥料株式会社は之に応じない。そこで原告会社は被告新日本窒素肥料株式会社に対し前記債権中転付による取得部分五十三万五千四百三十一円の支払を求めると同時に総債権者のため残存部分七十一万二千円の取立を訴求するものである。

ところで、右残存債権取立の暁はその配当についてまず債権者間で協議し協議の調わない場合は之を供託した上執行裁判所において配当手続を行うべきものであるが、本件においては債権者多数のため何個の差押が競合しているか執行裁判所たる福岡地方裁判所に明らかでないので同裁判所において配当手続を行うことができないから、債権者において之を配当する他なく、而して本件各執行債権額に応じて之を配当すればその配当額は原告会社十三万六千円・被告松本建設株式会社二十四万七千円・同大起産業株式会社十三万七千円・同吉富十九万二千円となるのであるが、同被告等が之を争うので同被告等との間においてその確定を求める次第である。

仮に被告松本建設株式会社の(一)の仮差押が有効とすれば原告会社の(三)(四)の転付命令はともに実質的な効力を生じないことになるけれども、この場合被告大起産業株式会社・同松本建設株式会社の(五)(七)の転付命令も亦同様実質的な効力を生じえないこと多言を要しないから、結局本件においては有効な債権転付は一として存しないことになるのであるが、原告会社は(九)の通り前記債権百二十四万七千四百三十一円全額について取立命令をえているから、之に基いて総債権者のため右債権全額の取立を訴求するものである。<立証省略>

(一)福岡地方裁判所昭和二十七年(ヨ)第三四二号債権仮差押命令申請事件………同年十月三日決定

執行債権………被告松本建設株式会社の長屋に対する前渡金の内金債権百六十万円

目的債権………長屋の被告新日本窒素肥料株式会社に対する鋼材売渡代金債権の内右同額

被告新日本窒素肥料株式会社に対する送達………同年十月六日

長屋に対する送達………右同日頃

(二)同裁判所同年(ヨ)第三六五号債権仮差押命令申請事件………同年十月十四日決定

執行債権………被告大起産業株式会社の長屋に対する売掛代金債権七十一万二千円

目的債権………長屋の被告新日本窒素肥料株式会社に対する鉄鋼品その他の売掛代金債権の内右同額

被告新日本窒素肥料株式会社に対する送達………同年十月十七日

長屋に対する送達………右同日頃

(三)同裁判所同年(ル)第一一二号債権差押・転付命令申請事件………同年十一月四日決定

執行債権………原告会社の長屋に対する約束手形金債権三十七万九千六百七十八円および督促手続費用・仮執行宣言費用合計三十八万千六百十八円

目的債権………長屋の被告新日本窒素肥料株式会社に対する鋼材代残金債権百三十八万五千九百六十九円の内右同額

被告新日本窒素肥料株式会社に対する送達………同年十一月八日

長屋に対する送達………右同日頃

(四)同裁判所同年(ル)第一一八号債権差押・転付命令申請事件………同年十一月十一日決定

執行債権………原告会社の長屋に対する約束手形金債権二十九万三千九百二十八円および督促手続費用・仮執行宣言費用合計二十九万五千二百十七円

目的債権………長屋の被告新日本窒素肥料株式会社に対する鋼材代残金債権百三十八万五千九百六十九円の内右同額

被告新日本窒素肥料株式会社に対する送達………同年十一月十三日

長屋に対する送達………右同日頃

(五)同裁判所同年(ル)第一一九号債権差押・転付命令申請事件………同年十一月十一日決定

執行債権………被告大起産業株式会社の長屋に対する売掛代金債権八十八万七千五百九十円

目的債権………長屋の被告新日本窒素肥料株式会社に対する鉄鋼品その他の売掛代金債権の内右同額

被告新日本窒素肥料株式会社に対する送達………同年十一月十三日

長屋に対する送達………右同日頃

(六)同裁判所同年(ル)第一三二号債権差押命令申請事件………同年十二月十六日決定

執行債権………被告吉富の長屋に対する売掛代金債権百三十万円

目的債権………長屋の被告新日本窒素肥料株式会社に対する鋼材売掛代金残金債権百二十三万九千九百十二円

被告新日本窒素肥料株式会社に対する送達………同年十二月十八日

長屋に対する送達………右同日頃

(七)同裁判所昭和二十八年(ル)第八号債権差押・転付命令申請事件………昭和二十八年一月三十一日決定

執行債権………被告松本建設株式会社の長屋に対する前渡金債権六十五万九千百二円七十八銭および之に対する昭和二十七年十二月二十六日から翌二十八年一月二十五日までの損害金債権五千四百九十二円合計六十六万四千五百九十四円七十八銭

目的債権………長屋の被告新日本窒素肥料株式会社に対する鋼材売渡代金債権右同額

被告新日本窒素肥料株式会社に対する送達………同年二月二日

長屋に対する送達………右同日頃

(八)被告新日本窒素肥料株式会社は、右(七)の事件について被告松本建設株式会社がした民事訴訟法第六百九条に基く催告に対し、同年二月七日長屋の同被告会社に対する債権を百二十四万七千四百三十一円の限度で認諾し且その全額を支払う意思のあること、および右債権がすでに(一)乃至(六)の通り仮差押または差押を受けたことを陳述した。

(九)同裁判所同年(ル)第三五号債権差押・取立命令申請事件………同年三月二十五日決定

執行債権………原告会社の長屋に対する約束手形金債権三十万円および督促手続費用・仮執行宣言費用ならびに同約束手形金債権四十三万四千百十八円および督促手続費用・仮執行宣言費用合計七十三万七千二百十円五十銭

目的債権………長屋の被告新日本窒素肥料株式会社に対する鋼材代残金債権百二十四万七千四百三十一円

被告新日本窒素肥料株式会社に対する送達………同年二月二十八日

長屋に対する送達………右同日頃

被告等はいずれも「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、原告会社主張の請求原因事実中、(一)乃至(七)の仮差押・差押・転付命令等が(一)乃至(七)の通り執行されたこと、(八)の陳述がされたこと、(九)の差押・取立命令が(九)の通り送達されたこと、ならびに(一)乃至(七)および(九)の各執行の目的物が同一債権であることを認め、甲号証の各成立を認めた外、なお各自次の通り述べた。<立証省略>

被告新日本窒素肥料株式会社は長屋に対して本件百二十四万七千四百三十一円の債務を負担しているが、之に対して(一)乃至(七)および(九)の各執行が競合して何人がその真の権利者であるか判明しないので支払を留保しているものである。

被告松本建設株式会社は(一)の仮差押命令が被告新日本窒素肥料株式会社の営業所を福岡市下小山町六番地として同所に差置送達されたことは認めるが、元来送達を受けるべき営業所は定款記載の本店または支店に限られる理由はなく事実上の営業の本拠であれば足るのであり、同所は同被告会社の事実上の営業の本拠であるから、同所で行われた該命令正本の送達は適法でその無効を前提とする原告会社の本訴請求は理由がない。また七十一万二千円に関する原告会社の請求が所謂配当異議の訴であるとすれば、本件は未だ配当手続の段階に移行していないから本訴はその前提を欠き失当たるを免れない。

なお同被告は証人安藤公明の証言を援用した。

被告大起産業株式会社は(一)の仮差押命令が被告新日本窒素肥料株式会社の営業所を福岡市下小山町六番地として同所に差置送達されたことを認める。民事訴訟法に所謂営業所とは独立して取引を行うことのできる業務の中心たる場所を意味するものであるが、同所は九州地方における同被告会社の業務の中心たる場所たるに止まり独立して取引を行うものとはいえないから民事訴訟法上の営業所としての要件を欠き、従つて同所における該命令の送達は不適法と断ずべきものであつて被告松本建設株式会社の(一)の仮差押は何らその効力を有しないものである。従つて原告会社の(三)の差押・転付命令に先行したものは被告大起産業株式会社の(二)の仮差押だけであつて、両者の債権額を合計しても目的債権百二十四万七千四百三十一円に満たないから当時なお差押の競合なく、従つて原告会社の(三)の差押・転付命令はもとより有効であるけれども、その(四)の差押・転付命令は昭和二十七年十一月十三日午前十一時被告新日本窒素肥料株式会社に送達されたものであるのに対し、被告大起産業株式会社の(五)の差押・転付命令は原告会社の主張と異り同日午前十時原告のそれに先立つて被告新日本窒素肥料株式会社に送達されたものであるから、もとより被告大起産業株式会社の(五)の転付命令が有効であり、従つて前記債権百二十四万七千四百三十一円から原告会社の(三)の命令による転付取得額三十八万千六百十八円を控除した残額八十六万五千八百十三円は全額被告大起産業株式会社に帰属したものであつて、爾後他の債権者の加入する余地はなく、従つて原告会社の本訴請求は右三十八万千六百十八円の限度を超える範囲においてはすべて失当たるを免れない。

三、理  由

原告会社主張の(一)乃至(七)の仮差押・差押・転付命令が(一)乃至(七)の通り執行されたこと、(八)の陳述がされたこと、(九)の差押・取立命令が(九)の通り執行されたこと、本件各執行の目的物が同一債権であること、被告松本建設株式会社の(一)の仮差押の執行が被告新日本窒素肥料株式会社の営業所を福岡市下小山町六番地として同所に差置いてされたものであることは各当事者間に争いがない。

原告会社は民事訴訟法第百七十条に所謂営業所は本店または登記された支店たることを要するのに同所は之に該当しないから同所においてされた右命令正本の差置を以て該命令の適法な送達があつたとはいえないと主張するので、まずこの点について検討すると、同法に所謂営業所とは必ずしも原告会社の主張するように本店または登記された支店たることを必要とせず、独立して主たる営業行為の全部または一部を完結することのできる場所であれば足ると解せられるところ、証人安藤公明の証言および弁論の全趣旨によれば、前同所は新日本窒素肥料株式会社福岡営業所の名の下に同被告会社の主たる営業行為である製品の販売業務およびその他製品の保管受渡等の業務を掌る場所で、福岡県・大分県・山口県をその所管区域として同地方における年間約三億円に上る同被告会社製品の販売およびその代金回収を一手に掌握し、独立してその取引を完結しているものと認められるから、同所は同法に所謂営業所としての要件に欠けるところがないものといわなけばならない。なお同証言によれば、同所において他より物品を購入した際は同被告会社の本店より検収報告書に基いて代金支払方の指示があり、同所は之に基いて本店から送付を受けた金員の支払をしていることが認められるけれども、同被告会社の主たる営業行為は前述の通りその製品の販売であつて物品の購入がその主たる営業行為の一に属すると認めるべき証拠はなく、却て同証言によれば同被告会社が長屋から購入した本件鋼材も同被告会社の自家用に使用するもので転売を目的としたものでないことが明らかであるから、前記購入物品代金の支払いについて本店の指示を受けるからといつて同所が同被告会社の営業所たることに何らの消長も来すべきいわれはない。

従つて被告松本建設株式会社の(一)の仮差押命令は被告新日本窒素肥料株式会社に対しても適法に送達されたものといわなければならない。

ところで債権に対する仮差押は同一債権に対する他の債権者の強制執行が債務の弁済を求める段階に及んだ時は当然に之に対して配当要求を申立てたのと同一の権利を有するものである(民事訴訟法第六百三十条第三項)から、他の債権者は何らかの優先権を有しない限り仮差押債権者のこの権利を排除して自己の債権の満足を得ることはできず、従つてすでに仮差押の目的となつた債権に対して転付命令が発せられた場合は該命令は優先権のない限り何ら実質的な債権転付の効力を有しないものといわなければならないから、右(一)の仮差押におくれて執行された原告会社の(三)(四)被告大起産業株式会社の(五)の各転付命令は前記優先権の存在について何ら主張・立証のない以上いずれも実質的に無効のものという外はなく、該命令と同時に執行された(三)(四)(五)の各差押命令がひとりその効力を保有するに過ぎない。

従つて原告会社が(三)(四)の転付命令の有効を前提として本件目的債権中五十三万五千四百三十一円の自己に対する排他的帰属を主張する点は理由のないことが明らかである。

而して債権に対する差押は同一債権に対する他の債権者の強制執行が債務の弁済を求める段階に及んだ時は当然に之に対して配当要求の効力を生ずるものであるから、右(三)(四)(五)の各差押および被告吉富の(六)の差押におくれて執行された被告松本建設株式会社の(七)の転付命令も亦前記優先権の存在について何ら主張・立証のない以上前説示同旨の理由により実質的に効力を生ずるに由ないものといわなければならない。

従つて本件においては被告松本建設株式会社の(一)の仮差押および(七)の差押(前者は一部後者に移行)・原告会社の(三)(四)(九)の各差押被告大起産業株式会社の(五)の差押(同被告会社の(二)の仮差押は之に移行)・被告吉富の(六)の差押が競合するわけである。

ところで仮差押または差押が競合する場合にそれが配当要求を申立てたのと同一の権利を保有しまたは配当要求の効力を生ずることは前述の通りであるが、ここに所謂権利の保有または効力の発生もすべて同一債権に対する他の債権者の強制執行が第三債務者に対して債務の弁済を求める段階に及んだことを前提とするものであつて、仮差押はもとより差押もそれ自体としては――それが競合した場合においても――何ら第三債務者に対して債務の弁済を求める手続を進行させうるものでないことは多言を要しない。

而して債権に対する強制執行において右の手続を進行させるためには差押債権者は転付命令または取立命令をえて之を執行する他なく、差押の競合する場合には特に優先権のない限り転付命令が実質的に効力を生じないこと前述の通りであるから、この場合には差押債権者はひとり取立命令を以てのみ前記の手続を進行させうるものにすぎず、差押債権者の一が取立命令をえて取立手続に入れば当然に之に対して仮差押債権者は前記の権利を保有し差押は前記の効力を生ずることとなるのである。

従つて取立命令をえた一の差押債権者は競合する執行債権者その他の配当要求者のすべてのために取立手続を進めるものであつて反面第三債務者の之に対する弁済は総債権者に対する弁済としての効力を有することとなるのである。ただこの弁済は他に仮差押または差押が競合する場合には形式上その第三債務者に対する支払差止の効力に牴触するかのような外観を呈するけれども、仮差押は本来強制執行保全のために行われるものでありまた差押は移付命付発布の前提として行われるものであつて、しかも差押が競合しその他配当要求者ある場合には執行債権の満足をえようとすれば差押債権者の一が取立命令をえて之を執行する外なく且その取立は他の差押債権者を含むすべての債権者のために行われるものであることに鑑みれば、差押債権者の一が取立手続に入れば他の仮差押または差押債権者は当然に之に対して配当要求を申立てたのと同一の権利または配当要求の効力発生に因る権利を有するとともに、また取立債権者に対する関係においてはこの権利のみを有するに過ぎないものといわなければならず、従つて取立債権者に対する弁済は他の仮差押または差押債権者に対する関係においても亦もとより適法且有効といわなければならない。

また、このように解する時は、総債権者のために弁済された取立金の保管を一私人たる取立債権者の手に委ねることとなるのであるが、これは本来法が被取立債権に対する配当要求を許しながらしかも一私人たる差押債権者にその取立権を授与した当初から予定したところであつて、もし他の債権者が之を不安とすれば民事訴訟法第六百二十一条第二項に基き第三債務者に対して債務額の供託を求め、または同法第六百二十三条に基き取立債権者の提起した取立訴訟において共同訴訟人として原告に加われば足るのである。

以上説示する通り債権に対する差押が競合する場合においても之に対して発せられた取立命令はもとより有効で、取立債権者に対する弁済は他の仮差押または差押債権者に対する関係においても亦何らその効力を妨げられるところはないのであるから、本件取立債権者たる原告会社の被告新日本窒素肥料株式会社に対する被差押債権百二十四万七千四百三十一円全額の取立訴求はもとより正当であつて、同被告会社は右取立に応ずべき義務があるものである。

ところで原告会社は本件被差押債権百二十四万七千四百三十一円の中一部を自ら転付取得したことを前提として残部七十一万二千円についての配当額の確定を求めるけれども、(三)(四)の転付命令が実質的に効力を有しないこと前述の通りである以上、被取立債権額従つて配当されるべき金額百二十四万七千四百三十一円の中七十一万二千円についてのみ配当額の確定を求める利益に欠けるこというまでないが、元来この点に関する原告会社の主張は以下述べる通りそれ自体理由のないものである。

原告会社はこの点に関する請求の理由として、本件は債権者多数のため何個の差押が競合しているか執行裁判所たる福岡地方裁判所に明らかでないので同裁判所において配当手続を行うことができないから債権者において之を配当する他なく配当されるべき額について争いがあるのでその確定を求める、と主張するので考察すると、仮差押または差押が競合する場合に一の差押が取立手続に移行すれば他の仮差押または差押は当然に之に対して配当要求を申立てたのと同一の権利を保有しまたは配当要求の効力を生ずること前述の通りであるが、これは民事訴訟法第六百二十条による配当要求と異り配当要求のためにする特段の行為なくして当然にこの権利を保有しまたはこの効力を生ずるのであつて、しかも仮差押または差押は原則としていずれも別個の執行事件の手続として行われるものであるから、一の差押債権者の追行する取立手続に対する競合執行債権者のこの権利の保有またはこの効力の発生を手続上前者に反映させる途は強制執行法上何ら規定されるところがないわけであり(民事訴訟法第六百九条による第三債務者に対する陳述の催告は差押命令の送達と同時にされることを要するものであるのに対し、差押債権者が取立を終えて之を執行裁判所に届出るまでに行われた仮差押または差押はすべて前記の権利を保有しまたは効力を生ずるのであるから、同条によつてもこの点に関する手続上の保障が与えられているとはいえない)、また債務者の住所の変更等により執行裁判所を異にして仮差押または差押命令が発せられた場合に想到すれば、執行裁判所が裁判所自身として競合する仮差押または差押のすべてを把握できない場合のありうることも否定することはできない。しかしながら執行裁判所において実現困難な事柄を一債権者に期待できるいわれは更になく、執行裁判所としては事実上第三債務者について之を尋ねる途も残されているのであるから、取立債権者は競合する債権者のすべてを知り難い場合または債権者間で取立金の配当についての協議が調わない場合は速かに取立金を供託して執行裁判所の配当手続を待つべきものであつて、取立債権者が取立完了前に取立金の配当を受けるべき者を限定して配当額の確定を求めることは許されないところといわなければならない。

よつて原告会社の本訴請求中(九)の取立命令に基き総債権者のため百二十四万七千四百三十一円の取立を訴求する部分は正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 丹生義孝 亀川清 可部恒雄)

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